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矢井 結緒の部屋


[66] ふたりで泣いた
詩人:矢井 結緒 [投票][編集]


バイトの初日
家を出たあと
彼女は電話をしてきた

「ホントは
行きたくないんでしょ?」

彼女の話しぶりや
声の調子から
携帯の向こうで
無言で頷く様子が
目に見えるようだ

その街は
ファッションヘルスで
有名で
おっぱいパブとかも
あるらしい

「わかった。
その店の電話番号
教えて?」

わたしは身内を装って
彼女のバイト先の店長と
話をした

「妹に今後そちらから
電話とか余計な連絡が
あったりすると
面倒な事になりますけど
お分かりですよね?」
と言うと相手は
「判りました」と頷いた


「もう行かなくても
いいよ?」

折り返し電話すると
彼女は一言
「うん」と応えた

「ありがとね」
わたしが言うと
彼女は
「え!なんで?」と聞いた

「わたしに話してくれて
ありがとう」



電話の向こうとこちらで
ふたり笑いながら泣いた

2009/07/14 (Tue)

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