詩人:望月 ゆき | [投票][得票][編集] |
筆先で湛えきれず
液体が
ぽたり、ぽたり、と
滴るので
両の掌をくぼませて、ふくらみをつくり
上向きに
すこしかさねて
それをすくおうとしてみるけれど
わずかな隙間を
液体はすりぬけてしまう
墨汁にも似たそれは
掌に滲んで、
痕をのこしていく
透明で色のない空に
ぽたり、ぽたり、と
液体は落ちて
その点描は しだいに
隙間をうしない、
ぬりつぶされて 世界は
夜になっていく
わたしの掌には 今も
薄墨の色が消えない
夜の下でねむるわたしが
夜をつくりだしたのだということを
わたしは知らない
それ以前に わたしは
いずれ、朝がおとずれる
という夢を
まだ 見たことがなかった
それほどに
強く、しなやかな闇に
抱擁されていた
どこか遠くで
ぽたり、ぽたり、と
滴る音が聴こえている
薄目をあけながら ゆっくりと
掌の痕を、確認する
筆先は 今も
湛えきれないほどの液体を含み
滴るそれは また
ほかの誰かの掌に
痕をのこしているだろうか
水路を、月が流れていく