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弓胡桃の部屋


[2] 甘味ぜめ
詩人:弓胡桃 [投票][編集]

ケーキを焼いた。
真っ白いクリームを塗ったくって、
砂糖づけの果物を中にぎっしりつめこんで、
とんでもなく甘い代物。
あなたに言った。
「食べて。」
そして言った。
「ここにずっといてね。」

あの人はとうとう出ていった。
扉は閉ざされた。
私は一人になってしまったのに、
扉の向こうではあの人が、
他の誰かと笑ってる。
泣くわけにはいかない。
私の部屋は前と同じ、
甘いにおいにあふれてる。
残していったフォークで
私はケーキを食べ始めた。
その甘さのウラで
偽善の味、がした。
あなたは私のすがるような目を何を思って見ていたの?
あなたを縛りすぎたから出ていったの?
それとも私だったから出ていったの?

場違いな甘さに自分のみじめさを思い、
帰ってきて、という言葉を飲み込む。
さみしさは永遠のように思われたが、
いばらの塊のような
このケーキを食べ終えたら
その先には何かがあると
そう信じて生きていた。

そして、
甘いにおいも消えかけたあの部屋で、
顔の光をすっかり失くした
私が
のろのると
扉、を開ける。

2003/05/10 (Sat)

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