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千波 一也の部屋  〜 投稿順表示 〜


[575] お空は少し広すぎるので
詩人:千波 一也 [投票][編集]

たとえば少年の溜息を

たとえば少女の独白を


空は拾いあげるでしょう

空にはみんなの星がある



たとえば背広の焼酎を

たとえば情婦の香水を


空は拾いあげるでしょう

空にはみんなの星がある



今夜あたり、入浴の頃合です

星は永遠の輝きとは限りませんので


ですからどうぞ

今夜の雨には御容赦ください




夜明けの、澄ました雨上がり

なんとなく紫陽花が物知り顔なのは

空から湯水を浴びたおかげです



みんなの思いを拾いあげて

うっかり湯水に溶かしたおかげです




2006/09/09 (Sat)

[576] 白の所有権
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まっさらなノートを買った

でもそれだけでは

所有にならない



光のようなシャツを買った

でもそれだけでは

所有にならない




汚さなければならない

涙が出るほどに、渾身の力でもって

汚さなければならない



ありがとうという悲痛な謝辞が聞こえたら

所有の権利は君のもの


二度と彼らに向く目は存在しないのだから

所有の権利は君のもの





2006/09/09 (Sat)

[577] それぞれの明日へ
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良き友よ、

お前の肩を叩かせてくれないか

軽く、一度だけ


そして

良き友よ、

おれの肩を叩いてはくれないか

軽く、一度だけ



渾身の力を注がない分だけ

渾身の情が注がれるのさ


だから

軽く、一度だけ



何よりも重たく

軽く、一度だけ



今夜のおれは深く眠りに落ちるだろう

それは決して酒のせいじゃない

お前のその、

優しい重みのためだ



良き友よ、

今夜のお前も深く眠りに落ちるといい



夢に惑うことなく、

深く眠りに落ちるといい



やがて来る朝陽に向かって

軽く、
強く、

その背と足と両腕を解き放とう

一晩の重みを脱ぎ捨てて



枕元に

一晩の重みを脱ぎ捨てて






2006/09/09 (Sat)

[578] 紙飛行機になる
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もともと性に合わないんだ


優しくされるのも

穏やかになるのも

まんざらではなかったけれど



もともと性に合わないんだ




じっと見つめてごらん、鉄塔のもっと上

じっと聞いててごらん、足元のもっと下




大風が来る




つぎの風が吹いたら、

僕は夢になろう


今の今まで遠慮していた子供たちを呼び戻そう



つぎの風が吹いたら、

ごめん


きっと僕は夢になる


それでも君はついてくるかい



この目の奥には、保証の一つも無いけれど





2006/09/09 (Sat)

[580] 夕陽が堕ちる
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もともと

あてになる眼ではないけれど

それでも

夕陽の色彩くらいは

心得ている



川辺は 減速を始めている

木立は 瞑想を始めている

鳥達は 安息を始めている

あきらかに夕陽の時刻



あしたへと向かうはずの赤は

わたしの知らない方向とは

逆へ


真逆の道へと向かっている




夕陽が堕ちる


ともなって

わたしの行く先は

まだまだ 

過去


絵はがきとして

誰かに渡っていったはずの

過去



夕陽が堕ちる


わたしは

まだまだ眠られない



2006/09/09 (Sat)

[581] サラマンドラ
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寒冷に順応できず

やがて

命を奪われかけて

それゆえ

灼熱


灰と 火柱と 黒煙と


好き好んで

化身となったわけでは無いのに


ただ

寒さに耐えられず

ただ

冷たさに恐怖して



それならば、と

灼熱に

埋もれただけのこと


捕われただけのこと


2006/09/09 (Sat)

[582] 穏やかな陽のなかで
詩人:千波 一也 [投票][編集]


この手には限りがあることを

渋々から卒業をして

潔く

承知出来るようになったんだ



五本の指は五本でひとつ

二本の腕は二本でひとつ


一生懸命になるのではなくて

一生懸命にならざるを得ないように

もともと僕は生まれていたのだったね



この手を こぼれるものも

この手を ころがるものも

この手を みかぎるものも

僕は震えずにその名を言えるよ



こっそりと、ほんのすこし

僕は

この手に触れたものには

温度を渡すことに決めたんだ


伝わっていないかも知れないし

今頃どこかで

冷え切っているかも知れない


でも、僕は

覚えておくことにしたから


こっそりと、ほんのすこし

温かくなれる




頬をくすぐって、風が近くで渦を巻く

「お前はここの河原が好きだったね」

椅子にふさわしいこの岩を

軽く 

なでなで。


2006/09/09 (Sat)

[583] 不思議の国のアリス
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ねぇ、アリス

貴女が居なくなっても

この世界は続くと思っているでしょう


ここは たまたま落ちた夢の国


だから

たまたまなんて

二度と起きたりしないのよ



ねぇ、アリス

貴女でなければならないの


不思議も 魅惑も 恐怖も 郷愁も

貴女らしさの為にあるのよ



でも、鍵は渡しておくわ

こちらの国の扉には錠なんか無い

あちらの国の扉のために

その鍵を

なかなか勇気のいることでしょう



ねぇ、アリス

この国にも例外なく 

永遠は約束されないわ


ねぇ、アリス

そのことだけは忘れないでいて欲しいの


だから、鍵を渡しておくの


2006/09/09 (Sat)

[584] 夏の虫
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ほら、見てごらん

無数の蛍  

無数の蝶々


せっかく部屋を暗くしたのに

ほら、見てごらん

僕らはすっかり取り囲まれてる



吐息、ひとつ

(甘く、美味)

喘ぎ、ひとつ

(淡く、光り)



蜜と光を求める虫に君の波長が重なったらしい



限界まで火照ったところだ

丁度いい


おいで

おいで

夏の虫

飛んで火に「入れ」夏の虫



二人の瞳にふさわしく可憐に映える花火とかわれ



おいで

おいで

夏の虫


飛んで火に入れ夏の虫


2006/09/09 (Sat)

[586] 作業灯
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星空の下では今日も 

作業灯が明るい


掘り起こされる大地

積み上げられゆくコンクリート

道行く人は

まだか、と未来を吐き捨てる

けれども作業灯は

必ずの未来へと向かって

今日も一途に明るい



私に未来は あるのだろうか

私の未来は どこであろうか



星空の下では今日も 

作業灯が明るい

一途に明るい



2006/09/09 (Sat)
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