詩人:ℒisa | [投票][編集] |
弟は7歳の時に
相撲を始めた
大会があった日は
いつもトロフィーかメダルを
持って帰ってきた
自慢だし
誇りだ
冬休みも夏休みも
盆暮れ正月も
稽古をしていた
弟に会えるのは
週に一度
月に一度・・・
回数はどんどん減っていった
スポーツで有名な高校に入った
うちにお父さんはいない
お母さんは昔から病弱だった
私は少しでも家計を助けたいと
高校を中退して働いた
弟には何も言わなかったが
弟はそれに答えるかの様に
今まで以上に努力した
最後のインターハイを終えて
弟はプロの力士になった
おじいちゃんは
毎日国技館に行って
弟の試合を見ている
唯一の楽しみなんだなんて
笑っていた
2月1日
久しぶりに実家に帰ると
母が深刻そうに話をし始めた
弟の事だった
プロに入ってから解った事だけれど
どうやら弟は心臓が悪いらしい
親方から電話があり
このまま相撲を続ければ
いつ死んでもおかしくない
そう言われたと
母は泣いた
いつか横綱になって
親孝行
おじいちゃん孝行するんだと
弟はいつも言っていた
相撲をやめても
心臓の病気は治るわけではない
来場所を最期に引退するか
まともな稽古を出来なくても
このまま相撲を続けるか
よく考える様にと
親方は言った
12年間
弟は相撲の稽古だけを
毎日毎日していた
おととし弟はプロになった
「出来る事なら心臓のひとつやふたつ
いくらでも変えてやるんだけどね」
母は言った
私も同じ気持ちだった
「心臓の弱い子に産んでしまった私をあの子は恨むかな」
母は言った
「そんな事、口にするどころか心に思ってもいけないよ」
私は怒った
「なにかあったら
言っても無駄だと思う前に
なんでも言って。
出来ない事でもなんとかするから。」
そう言って私は自宅に戻った
神様なんか信じない
けど
弟の事は信じているから
親孝行
おじいちゃん孝行するんでしょ
頑張ろうな
もうじゅうぶん
孝行息子だと
思うけどさ