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[122039] 桃の花をひと枝飾る
詩人:夢野咲道 [投票][編集]

今日は母の誕生日
生きていたら74歳になる


花が好きで、山菜取りが好きで
洒落た料理など作った事は無かったけど
母の料理は何か温かい味がした

運動会になると決まって作ってくれたのり巻き
もう味わえないお袋の味


気配り過ぎる人だった

いつも自分の事より
周りの事にばかり気を配ってた
自分が治る見込みの無い病の中にいてさえ
尚、1人で家にいる父の事や
離れている私の事ばかり心配していた


父は公務員だったが
母も私が物心ついた頃にはもう働いていた
農家の出面、肉屋のパート・・・

1人息子で愚かなバカ息子はお金に苦労はした事が無い

高校で下宿生活をしてた時も
大学で東京に行ってた時も
社会人になって1人暮らしを始めた時でさえ

母が亡くなって、一段落した時
父に頼まれて母名義の通帳を解約に行った

通帳には私が生まれた昭和30年代前半から毎月
2,000円、3,000円、2,000円と積み立てられていた
時折、大きく引き出されていたのは私への仕送りだったのか?
そして又、2,000円、3,000円と・・・涙が溢れた


子供が好きでよく甥っ子や姪っ子を可愛がっていた
そんな母に私は一度も孫を抱かせてやれなかった

母が入退院を繰り返していた時
父は甲斐甲斐しく母の世話をしていた
肩を揉んだり背中や腰をさすったり
それは父の領分だと私は妙な遠慮をしていた

亡くなる前の日
母は珍しく私に背中をさすって欲しいと言った
さすってあげると母は本当に嬉しそうな顔をした

「なんで、もっと早く!」
愚かなバカ息子に沢山の後悔だけが後から沸いてきた

翌年私は結婚をした
母の三回忌は偶然にも娘の誕生日になった
でも、娘が母の生まれ変わりなんて思ってはいない
多分、娘の事はいつも母が見守ってくれてるんだろう
そんな縁を結ぶ為に、その日を選んで生まれてきたのだと思う
だから、母の命日は哀しむ日ではなくて娘を祝う日になった
その代わりに私は3月1日に母を偲ぶ事にした。

こんな事はうちの奴には言えないから
何も特別な事などしないけど
心の中に桃の花の枝をひとつ、今年も飾る


記:2007.3.1

2008/03/02

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