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[170274] この部屋で、彼を見続けはや十年
詩人:高級スプーン似 [投票][編集]

九年前の二年目。


彼は身を粉にして心力を注ぎ、自らの命を削って魂を吹き込んでいく。

離れた場所からそれを言葉にするのは、とても簡単なことだ。

誰にでも書ける。

けれど、懸けるものがなければ、芽吹きもしない。

無精卵は夢を見ないから。

白紙の部屋の骨組みが見えなくなるまで、彼は集中力を高めていく。

頭を抱えながら激痛に堪え忍び、苦しみ抜いた先に煌めく一瞬を。

逃すものかと、彼は飛び出した。

研ぎ澄ませた直感で、閃きを掴め。

白紙の部屋に上がる産声。

意識の外に現れた。


ちいさないのち。


彼は顔を綻ばせながら、自身の頬に伝う涙に目もくれずにその手を伸ばした。

小さな命を胸に抱いて、心から想う。

ありがとう。

生まれてくれて。





<POET10YEARS:number=02>

2011/08/05

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