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[183012] 梢(こずえ)
詩人:遥 カズナ [投票][編集]

















汚れて
手に馴染んだ
野球グローブの先から
よじ登り
土から這い出た
蝉の
抜け殻を肩に

上へゆくため
噛みしめてきた時を
土臭い体の隅々に
少しずつ蓄え
ついにそれを糧に
純白の新しい体を
真っ青な空を背に
さらけ出した

やがて
しっかりとしたタッチの
鉛筆デッサンのような輪郭が
堅い意志を刻みはじめる

ナニモカモミナ
アタラシイ

蝉はそう鳴く

ビーズの黒い目玉に映りこんだ景色が
カメラの
シャッター音くらいに
鮮明に記憶に蘇る

薄く透明に開かれた羽の隅々まで
しゃんとした呼吸の道筋が行き渡り
一枚一枚に
指に摘んだ感触があり
過去か今なのかも
もうない

ナニモカモミナ
ナツカシイ

分かっている

何の理由もたず
缶切りみたいにその事の為だけに
こうしてあり
たとえ
他になんの役にもたてなくても
万全の準備と真剣さを
誰かに知られる事に
慰めを求める事にすら
余力を残さなかった

たとえその時
弱音を吐いてしまっていたとしても

もう、たどり着いている


















(今は亡き同僚であり釣友、大城に捧ぐ)

2013/12/14

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