詩人:浮浪霊 | [投票][編集] |
翌日には熱は下がっていた。狐に摘まれたような気分だった。
寝汗で癖のついた頭を苦労して梳かし、登校すると、校門前で彼と鉢合わせた。
彼はバツが悪そうに私に微笑みかけた。私も笑い返したが、お互いになんと声をかけたものかわからず、妙な間が流れた。
通りがかった級友が何か話しかけて来ようとしたが、無言で立ち尽くしている私達を見て場の空気に気圧され、訝しげに私達を眺め回すと立ち去っていった。
それからだ。私達のまわりで噂が立つようになったのは。
妙な噂には尾ひれがついて、私達はいつの間にか付き合っていることにされ、変な渾名もつけられた。教祖夫妻、だそうだ。全く。
彼は子供らしく狼狽えたようだったが、私はまんざらでもなかった。
私達はよく話すようになった。互いの誕生日には贈り物を用意し、バレンタインにはチョコレートを交換し、クリスマスは一緒にフライドチキンを食べた。
疲れがたまったり、痛む所が有ったり、頭が痛んだりすると、私はその度にそれとなく彼に話し、癒しをねだった。
逆に彼が具合を悪くすると、私は彼を真似て手を翳してやった。
そう、本当のところただ彼に触れてもらいたかっただけだった。時に私は彼に触れてもらいたさで仮病をつかうことすら有ったのだ。私にとってそれは愛撫のようなものだった。
私にとって彼は特別な人になった。触れようとしてくれる人間など、彼以外にはいなかった。親ですらそうだった。最後に彼以外の誰かに触れてもらえたのがいつだったか、私は思い出せなかった。
冷やかす声はなかなか消えなかったが、私たちは辛抱強く耐えて皆が飽きるのを待った。
やがて年月が経ち皆の童気が抜け、私達の渾名はただの夫妻になり、更に数年が経つころには特に珍しくもないただのカップルとして認知されるようになった。
困難はむしろ私達の手脚が伸び、精神的にも肉体的にも半端な大人もどきになるのを待っていた。