詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
ドアを開けると
しらない私が待っている
無上の憩いを
約束するように
鏡の私が会釈する
窓の外には
なつかしい夜
あたたかな夜
単調に
指折り数えることの
単調な充足は
ようやく首位になる
ここにきて
本当の首位になる
ドアから出ると
廊下は静かに灯りだす
いつかの音を忍ばせて
だれかの声を
忍ばせて
ゆっくりと
滲み始める
私の時計は
正しさに欠けていて
気まぐれに物語を編む
ふと
立ち止まるのは
そういうからくり
そういう
仕掛け
真白な煙のなかには
何も見えない
でも
それでいい
幻めいた瞬間が
そこに在るということ
真実味のある儚さが
そこに見えるということ
容易にはあり得ない
容易さに
私はひとり
お辞儀する