詩人:高級スプーン | [投票][編集] |
いつものように
少しじゃれあった後
笑顔で
あなたは部屋を出た
何も疑わずに待っていた
TVのないこの部屋で
壊れたコンポの前で
午前三時を回っても
おかしいな
何かあったのかな
コチコチと進む秒針
立ち上がると軋む床
いつもならとっくに
帰って来ている頃なのに
落ち着かずに過ぎてゆく
当たり前に流れてゆく
あなたの居ない空間に
ぽつんと一人残されて
迷いなく
輪郭を描けても
どれだけ動きを
似せられても
「 」を付けて
語らせても
意味はないな
あなたは居ないし
言葉もないな
私がひとり
呟くだけで
もしも今
偶然に
あなたと
この部屋で
出会えたとしても
無視されて終わるのかな
一言も交わせずに
冷たくあしらわれ
それでも
あなたは
すべてを見透かして
傷付いてしまうのかな
捨てたのは
諦めていたのは
本当は
そう
私は私の過ちを
償いもせず
罰さえも躱し
あなたから逃れて
この部屋でひとり
悔やんでいるだけで
悪いのは全部
誰なのか
自分の口からじゃ
言えなくて
時計はコチコチと
鳴り止まず
私は立ったり座ったり
落ち着きなく
床を軋ませる
あなたの帰りを待って
これからも私は
新しい始まりを遠ざけて
想像もしなかった
この部屋で
―耳鳴りがする
脈絡のない文脈が
不必要に訴えかけてくる
小言みたいな
言い訳を重ねていると
内側から響き渡り
揺れる
古くなった頭蓋骨―
あなたの居ない永遠に
ぽつんと一人残されて