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[37005] 無題1‐1

詩人:ごんてつ


そこは“工場”と呼ばれていた。

便宜上の名前、誰にとっても都合のいい名前

いつ造られたのか? 何の目的で造られたのか? 誰に造られたのか?

解らない  いや、解らなくてもいい

ただ、そこに“工場”が有るという事実のみ存在する

中には、 主(ぬし) が居り、私の来訪を心から歓迎し、手厚くもてなしてくれた

彼もまた工場と同じ、いや 一部なのだろう

主は言った

「ここに一匹のヤマアラシがいる」

「先ずはこいつの棘を取る」

無造作にのばされたその手には無数の棘が捕まれており、

ヤマアラシの背中からは、途中から綺麗にその先端が失われていた

あまりの突然の出来事と、その切り口の見事さから私は、ひょっとして棘は折れたのではなく、自ら切り離したのではないかと思った。

「さて」

「この棘を今からこの釜に入れる」

私は釜を覗き込んだ

その中には、飯粒をすりつぶして出来た糊のような物が撹拌されていた

「ほれ、こうしてこのように」

カラカラと乾いた音を立てて棘が釜に吸い込まれて行く

棘と糊状の物が程良く混ざり合ったとき 主は言った

「これで安全になったろう」

安全?

私は眉をひそめ、訝しげに釜を覗き込む

どこが安全だというのか

なにも変わっていないではないか

主は誇らしげに、自分の成果を見つめている

その姿には、不安や恐れなど微塵も感じさせない

むしろ、微笑みで祝福してやりたい気持ちにさえなる

だが おかしい 間違っている

どこも変わってはいないのに

釜の中で棘が囁く

「もう僕たち安全になったの?」

「もう僕たち刺さらないの?」

「今はね」

「誰かが興味本位で手を触れるその時までは」


2006/05/06 (Sat)
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