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詩人:sublime
当日は老人ホームの視察に行っておりました。見学の最中に俄かに揺れ出したので、そばにおられた入居者様に、大丈夫ですよと言いかけたものの、立っているのもやっとの揺れになり、あらゆる物、物、物が右から左、左から右へと動いたり倒れたりするものですから、なんとしても怪我をしないように踏ん張ってやり過ごしました。
揺れは長く続きましたが、古今東西に起きた例を見ましてもやはり終わりはありまして、一段落着いたあとで見渡してみますれば、ガラスと陶器の破片の白濁とした海でございました。
不幸中の幸いといいますか、怪我人は一人もおらずに、速やかに広場に退避する事ができましたが、そこには大粒の雪。しんしんと降るこの結晶体を、あれほど恨めしく睨むのは、後にも先にもこれっきりと思われます。
余震もおさまり、入居者様を屋内に詰め込んだりなどして、不休のその場しのぎを終えてから、携帯電話にて方々へ連絡をつけようとしましても、生憎の電波具合。つながる者はおりません。ただし、同じく視察に来ていた同僚は母親と通話できたようで、なにやら話し込んでいましたが、津波に車が浚われたとと伝えた以降は、どうやら消息は途絶えたと見え、同僚は最早泣きじゃくる以外に振る舞えず、その姿は津波の恐ろしさをじゅうぶんに実感させていただきました。
さて、解散となり帰る事になりましたが、駐車場に亀裂が入り、道路も歪んだり、橋桁がせり上がっていたりなどで、帰途につく事はできず、仕方なしに勤務先に向かうと、そこもまた被害は甚大で、聞けば職員の家族も亡くなっている模様。それはそれとて入居者様の世話を欠かす事もならず、ただ黙々と働いております。
私の友人も数人、いまだに連絡がつかない者はおりますが、無事を祈りつつ、勤務先に寝泊まりする日々でございます。