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詩人:桃鈴
君という花,僕という水。
月明かりの下で,君という美しい蕾が開きだしました。
僕は君を咲かせるために土の中に潜り込み,君に吸い上げられるのを待っています。
そして君はある日,空を自由に舞う蝶に憧れを抱くのです。
白に限りなく近い薄紅色の君は,あの蝶の煌びやかな色彩に恋をしたのです。
…けれど蝶は,1ヶ所に留まることを知りません。
新たな蜜を求め羽ばたきを止めないのです。
君は僕を吸い上げることを拒み始めました。
君は枯れてしまうのに。
“それでもいいの,これでいつか風が私を乗せてくれるわ”
……君は細くなった茎で笑うようにふわふわと風になびいています。
“そして私も空を舞えるでしょう?”
拒まれた僕は,何時までもこの場には居られません。
太陽に焼かれ空へと還って逝くのです。
…出来れば君のその生命を長らえる力となりたかったけれど,
僕は空へと還るのです。
―――でも僕は約束しよう。
いつの日にか僕はまた,君に降る雨の雫となるから,どうかそれまで。君は君でいてください。
例えばそれまでに何度枯れてしまったとしても,
その生命を種の中に宿し,僕が君に届くのを待っていてください。
その時こそ君に息吹を与え咲かせる力となり,再び空を自由に舞う鮮やかな蝶に君が出逢えるよう,
僕は君の蜜になりましょう。
“色”を持たない僕は君の儚げな白や淡い薄紅が,とてもとても大好きなのです。