詩人:シャンク
もう、会えないんだよね
おれたち
そういう約束だったんだものね
出会いは不純なものだった
お互いの素性を明かさず、一度っきりの関係を持ちませんか
そんな男の言葉に女は反応した
お金で割り切った関係なら、一度っきりと約束して頂けるのなら
2、3回のやりとりのうちに男は感じ取った
この女、きっと誰かに背中を押して欲しいんだな
一歩前に進むために、己の偶像化に懸命なんだな
しかし、そんな事は男にとってどちらでもよい事だった
欲望の捌け口を求めているのであって、恋愛の対象を求めている訳
ではないのだ
そして二人はむさぼりあった
金銭の授受はなかった
女もその話題に触れようとはしなかった
改札口での別れ際、口から洩れ出た言葉に、男は自分でも驚いた
恋するなんてピュアな回路は、とっくの昔にどこかに置き去り
にして来た筈だ
出会いの方法なんて千通りあってもいい
大事なのは、無理矢理錆びつかせてしまっていた自分が、一人の
異性によって覚醒させられたという事実のみだ
その瞬間、一つの心配が男の頭をよぎった
この人はどうなんだろう
女はその言葉に答えるでもなく、プラットホームへと降りて行った
途中、一度だけ振り向いたその顔は、微笑んでいる様にも、泣いて
いる様にも見えた