詩人:番犬
水道管から食器へと落ちる水
窓からタイヤの回転音
アスファルトを刻んでいくのだろう
家賃を催促する家主の喚き
ブラウン管の軋み
どぶ川の深さで溺れた猫
ぼんやりと月を眺めてる野良犬の鳴き声
いろんな隙間から音が漏れて
それは本当にいろんな音で
洪水みたいに押し寄せてくるが
本質的には静寂以外は存在し得ない
意識の箱と言って過言ではない
この小さなアパートの一室
三日月の晩に膝をかかえ
ひび割れた鏡を見つめている
先月もそうだったし
来月もそうであろう
耳に痛覚
爪でかきむしる皮膚
落ち窪んだ眼球
瞳孔が灼けるほどの暗闇で
退廃を司る大脳へアクセス
救いの無い快楽の貪り
使い捨ての注射針がそこら中で
使い捨てた時間の数を誇っている
ああ神様
俺は悪い子ですか?
親に捨てられた
この俺が悪いのですか?
もう二度と望みません
だから今だけは見逃して下さい
淡々と一人会話を続ける
深さ無限の自己内省
自我崩壊を待っている
理性を脱ぎ去った俺に残る物は
多少の散文詩
化学物質
近代哲学
骨の仕組み
パイプに詰めた葉っぱだけが
僅かにほの暗く辺りを照らす
床から天井までの2メートル
紫色の煙だけが流動的なフラクタルを描いていた
沈む
沈む
無重力を感じる
沈む
沈む
死と再生
僅かな光を精製する
メスカリン
アルコールランプ
アルゴリズム
アナログレコードのアナグラム
俺の声
心臓音
呼吸器の破綻まで
紫色の煙を肺に充満させ続けよう