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詩人:遥 カズナ
「フィッシングは断じて
スポーツではない ハンティングなのだ」
つんざき 軋むタックル
「覚悟していた」
未知との接点に渾身の戦略が悲鳴をあげる
「待っていた 待っていたのだ」
両の足の平をこらえ
背筋から冷たく吸い込まれて世界の外へ吐き出されてしまいそうな気配に耐え抜く
螺旋の非常階段を全速力で駆け上がる
仕掛けを伝い
獰猛な衝撃が
尻尾を跳ねただけで猛獣だと教えてくる
けれど 糸を緩める気など微塵もない
千載一遇のチャンスにめぐり会えたのだ
旋盤機のように頑丈なリールから
嘘のようにラインは弾け出てゆく
逆巻く波の向こう
鋭く弧を描くロッドは
猟犬の眼光のような穂先を海底の獲物へ向け続ける
張り詰めたラインが潮風を掻き裂き
笛のように鳴く
全開の格闘は限界を誘い 弱音が裏口を探して
立ち上がりそうになる
一呼吸をおいたその刹那
迷う瞬間すら投げ捨て
ギアを重くおとし
全身全霊の賭けに打って出る
ひたすらに
後悔の届かない結論を追い求め 腕を振るう
レコードクラスの獲物を足元に
武者震いが膝から込み上げ 現実の歓喜が息切れの向こうから ようやく迎えに来てくれる
今夜は最愛の仲間達と
最高の獲物をさかなに
酒と釣り談義に酔いしれよう
フィッシングは
果てしのない浪漫に満ち溢れている