詩人:矢井 結緒
ほんとは
こっちが
先に好きになったのに
あっちが
フライングして
コクったりするから
「うん」と
素直に頷けない
なんだか
あと出しで
勝ってしまった
みたいで
モヤモヤしてる
「ね?
今の忘れて
ジャンケンしない?」
「はぁ?
なんだよ、いきなり...」
「いいから、いいから
いくよ?最初はグー」
「ん?」
彼の拳を
私の拡げたパーで包んだ
「ほら、あたしの勝ち」
「ギガセコいな、おまえ」
「こんな
あたしでよければ
付き合ってください」
「どんなアタシだよ?」
そう言って笑いながら
彼のグーがパーに変わって
私の手を包み返した
ふたりで
肩を並べて歩きながら
もう片方の手で
チョキを作って笑ったら
「なに?
もう一回
ジャンケンするの?」
彼が怪訝そうな顔をした
「しない。もう、
これ以上賭けるもの
ないから」