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[156702] 若葉はしらない

詩人:千波 一也


若葉はしらない

なんにも、しらない

ともすれば己が生きていることも

すっかり忘れて揺れている


瞳のあかるいひとや

髪の毛のうつくしいひとや

ことばに潤いの満ちるひとたちの

名前をいちいち若葉はしらない


永遠というものがあるならば

一枚の、一瞬のみどりが

必ず続いていくということ


おだやかに涙するひとも

いそいそと砕かれてゆくひとも

若葉はしらずに、ただ揺れている





若葉はしらない

ほんとに、しらない

うっかり枝から落ちたとしても

嘆きもふさぎもせずにいる


おそれる、という

心そのものや意義や足並みや

おそれと対峙することの諸々を

しらないことさえ、若葉はしらない


捨て去れなくなったものが

増えすぎてしまった

ひとの目に、指に

若葉はいつも懐かしく、清々しい


命の不思議と哀しみを

喜ぶように若葉は、ただ若葉である



2010/06/03 (Thu)
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