詩人:千波 一也
若葉はしらない
なんにも、しらない
ともすれば己が生きていることも
すっかり忘れて揺れている
瞳のあかるいひとや
髪の毛のうつくしいひとや
ことばに潤いの満ちるひとたちの
名前をいちいち若葉はしらない
永遠というものがあるならば
一枚の、一瞬のみどりが
必ず続いていくということ
おだやかに涙するひとも
いそいそと砕かれてゆくひとも
若葉はしらずに、ただ揺れている
■
若葉はしらない
ほんとに、しらない
うっかり枝から落ちたとしても
嘆きもふさぎもせずにいる
おそれる、という
心そのものや意義や足並みや
おそれと対峙することの諸々を
しらないことさえ、若葉はしらない
捨て去れなくなったものが
増えすぎてしまった
ひとの目に、指に
若葉はいつも懐かしく、清々しい
命の不思議と哀しみを
喜ぶように若葉は、ただ若葉である