詩人:千波 一也
わたしが覚えた涙のあまみは
傍らの辞書によれば
もろみ、と呼ぶそうで
カーテン越しの陽射しの匂いは
ときどき広くて
ときどき鋭い
いつか見た夢の数々が
今でもずっと夢なのは
否めようにも否めない
まるで優しい足枷みたい
息継ぎを忘れたら
魚になれるものであろうか
いつでもどこでも空をも往ける
きれいな魚になれるだろうか
ひっそり小出しにする嘘ならば
手のひらに負える重さが良い
まぶたを閉じても瞳はまるい
見えないからこそ尚更まるい
そこに名付けられた呼び方を
わたしは知りえないけれど
約束、という響きかたが
わたしの胸には温かい
両目でゆらりと宙を泳いだら
もうすぐ蝶々が舞ってくる
ひとつふたつと
多彩に結ばれて