詩人:良い席
混沌たる浮世にて一炊の夢を見ればいつの日かの悦びを思い出す。
それは遥か遠くの桃源郷で自分が暮らしていた時の記憶の様だ。今ではもうそんな過去の感傷に浸って僭越にも優越を感じるだけしか出来ない。
つまらないは何か。儚くも楽しかったと思わざるを得ない遠い過去の記憶は、本当に昨日の事の様だ。
現実に私が道を進み、私が終わる迄生き続けなければならないのか。私は行き続けている、もしも本当に時間が流れているとしたら。
しかし私の歩んだ道には何も残らないだろう。私の涙した過ぎ去った道々はもうどこにも見当たらないかもしれない。
只空しくも人として生を授かり、人として死を迎えるのだ。その間に何があったのだろう。私は本当に存在していたのだろうか。
私の生死の前後には何があったのだろうか。道中の看板は悪戯によって向きを変えられていた。しかし私は奇を衒って従わずに違う道を辿った。私は道草をし、野原に寝そべり煙草を吸った。煙草の吸い方もしらずに吸ったのでゴホゴホと噎せている。私の口からぷうっと出る煙は見上げる空の雲には遠く及ばない。私の吐息は野原の花を枯らした。恐れてその場を去り、また道に戻った。ブツブツと独り言を言いながらわざとふらふらしながら道を進んだのだ。通りすがりの人々はまるでどこかで見た事があるような人々ばかりだった。私は道を歩き続ける。けんけんぱと時には遊んで、立ち止まって振り向いて手を振ってバイバイしたなら私は走り出す。悲しみのススキの原を風のように突き抜け、虫や蝉の声が聞こえなくなった頃、私は行き倒れるのだろう。そこに一厘の花でも咲いてくれたら、ロマンチックなものだ。