詩人:千波 一也
工事ランプは今夜も寂しくて
車もまばらな夜の向こうには
灯るような、三日月
いまとなってはどんな言葉も
傷をかばうための
道具でしかないのなら
せめて
こまめに
踏むしかない
ブレーキを、
ブレーキという
狭さを
おのれの強さを守る理由は
総じて弱く
おのれの弱さを守る理由は
総じて
強い
どんな明かりで照らしても
背中の荷物は影を落とさないから
すべての寂しさよ
細々と
灯れ
赤く
ブレーキランプの断続が
ミラー越しに
遠ざかる
この目に映る遠くまで
夜はまっすぐ伸びていて
境目のなす意味は、もう
ひとつも残らない
誰のためでもなく
なにかのためでもなく
ほんのわずかな自由さと
それを育てる不自由さとが
尊い巨塔をなして
ゆく
監視のための、
うつくしい
巨塔
夜よ、灯れ
絶えずに灯れ
小さきものの
迷いや憂いや誇りの頭上から
はるか、
逃げ道を
照らせ
最後の
最後の
すくいのように
ただまっすぐに
照らせ