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[171388] 夜明け前

詩人:千波 一也


思い返せば、
みじかい言葉でした

苛立ちも
かげぐちも
願いでさえも

今となっては
レンズのない顕微鏡のような

役立たない、とは
言わないけれど

言えないけれど

もう少しだけ
毛布にくるまれていたい、とだけ
本音をぽつり



慣れた手つきで
開きかけたカーテンを
放置してしまいましょう

やめたところで
だれも困らないなら
すてき過ぎて
泣けてきます

振り返ることは、もう
終わりにしましょう



だれかに
聞いてもらえるような
願いではありませんでした

聞いてもらいたかったのか、と
問われたら
返事ははっきりしませんが

たぶん、
大切にする方法が
間違っていたのでしょう

月日がゆけば
忘れてしまいそうですが



得てして
すききらいは
上手な光り方でした

感応は自由で
明滅も自由で

なにがわたしの
素地だったのか、
知らないなら知らないで
良いのだと思います



ながい沈黙の
夢は続いてゆくのでしょう

これまでのように
美しさや
優しさや
やわらかさなどの
定義におびえて

答をそっと
拒むのでしょう

是非は
よくわからないから

ほどほどの饒舌さで
ほどほどの
寡黙さで



もうじき
夜が明けてゆきます

待つでもなく
避けるでもなく
途方もないものが
もうじき満ちてゆきます

だからわたしは
準備に余念がないのです

せっせせっせと、
ひとつでも多くの
忘れ物をするために

あちらこちらの
寂しさ悔しさ虚しさが
今夜もわたしに
帰れるように


2011/09/30 (Fri)
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