詩人:千波 一也
泥のなかに いたね
いつも そこしか
なかったね
汚れることなど なかったね
すべてを 受けて
おのおのだった ね
なんにも 簡単じゃなかったね
だけどなんにも 失くさなかった
形を変えたものはあっても
なんにも 要らなくなかったね
泥のなかには 水がある
水のなかには 不純がある
不純のなかには 純がある
純のなかには 澱みがある
泥のなかに いたね
恥じらいながらも まっすぐに
空につながる 不思議だったね
海も 緑も 鏡の向こうみたいで
泥のなかに いたね
選ぶことも なく
選ばれることも なく
素直に けなげに
やわらかだった ね
いつの日にか も
いつの間にか も
あのころは ただ
やわらかだった よね