詩人:EASY
世の中が便利になると
想い出が作りにくくなる
教授は
力強くそう言った
何を根拠のない事を言っているのだろうと
僕は思ったが
よく考えると
何だか妙に説得力があり
僕は
それに耳を傾けた
不景気は愚痴を言う為に必要であり
経済とはあまり関係ない
そして
愚痴を言わなければコミュニケーションが取りにくい現代人が発明したものが
便利なものである
教授はこの数式を黒板に書き
ブラックホールの秘密に迫ろうとしているのだ
僕は
この訳の分からない教授の理論に
訳の分からない心地よさを感じていた
教授は続けた
道路はロードである
あるまじき姿のアルマジロである
教授は得意気に言い放ったが
会場は静まり返っていた
少し後に
乾いた小枝が折れた様な
小さなラップ音が
会場に鳴り響いた
その音にビクッとしたのは
見たところ
教授と僕だけだった
講義の後
昼食をベンチの上で
一人食べている教授を目撃した
手作りと思われる
大きなサンドイッチを
教授は食べていた
教授は独身である
きっとサンドイッチは
自分で作ったのだろう
外はとても晴れていて
春を覗かせていた
今日が晴れで良かったと
僕は心の底から思った
これほどまでに
そう思ったのは
小学校の遠足以来かも知れなかった
僕は
訳の分からない愛しさを身にまといながら
人間の愛し方を
またひとつ知ったのだ