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[88317] 血脈

詩人:番犬



あんたの
エンジンオイルにまみれた腕が好きだった



そうだ
好きだった

今でもそれは変わらない感情で

おそらくこれからも同じだろうよ

自動車整備があんたの仕事だった

何度か覗いた事がある

まあお世辞にも綺麗とは言えない町工場で働く姿

金属と金属の擦れる音や、FMラジオから流れる曲が響いてた

あんたは黄色のつなぎを着て、オレンジ色の安全靴を履き、大きなスパナを片手に、首に掛けてるタオルで汗を拭ってた


そして年中変わらぬ寝癖の髪型で
うちに帰れば下手くそな鼻歌

ガソリンとタイヤとオイルの匂いが漂う背中

そして笑いジワを深く刻んだ顔が、どんなに粗末でもいい
どんなにちっぽけでもいい
背負える物が在るというだけで
人生は幸福なんだと教えてくれた

だから一秒一秒、胸を張って生きていける

俺はあんたの息子だから


俺とあんたの、血脈なんだ


あんたのような父親を誇れない息子がどこにいるだろうか

父よ

あんたが俺を初めて抱いた年齢に、俺も近づきつつある

いつの日か子供が生まれても不安はない

抱き方はあんたから教わった
アゴひげの押し付け方も、遊び方もあんたが教えてくれた

そして愛し方さえも

全部

全部だ

あんたが教えてくれた


この体、心深くに静かに

なによりも強く流れる血脈

俺はいつまでもあんたの息子だ

2006/10/27 (Fri)
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