詩人:番犬
あんたの
エンジンオイルにまみれた腕が好きだった
そうだ
好きだった
今でもそれは変わらない感情で
おそらくこれからも同じだろうよ
自動車整備があんたの仕事だった
何度か覗いた事がある
まあお世辞にも綺麗とは言えない町工場で働く姿
金属と金属の擦れる音や、FMラジオから流れる曲が響いてた
あんたは黄色のつなぎを着て、オレンジ色の安全靴を履き、大きなスパナを片手に、首に掛けてるタオルで汗を拭ってた
そして年中変わらぬ寝癖の髪型で
うちに帰れば下手くそな鼻歌
ガソリンとタイヤとオイルの匂いが漂う背中
そして笑いジワを深く刻んだ顔が、どんなに粗末でもいい
どんなにちっぽけでもいい
背負える物が在るというだけで
人生は幸福なんだと教えてくれた
だから一秒一秒、胸を張って生きていける
俺はあんたの息子だから
俺とあんたの、血脈なんだ
あんたのような父親を誇れない息子がどこにいるだろうか
父よ
あんたが俺を初めて抱いた年齢に、俺も近づきつつある
いつの日か子供が生まれても不安はない
抱き方はあんたから教わった
アゴひげの押し付け方も、遊び方もあんたが教えてくれた
そして愛し方さえも
全部
全部だ
あんたが教えてくれた
この体、心深くに静かに
なによりも強く流れる血脈
俺はいつまでもあんたの息子だ