詩人:甘味亭 真朱麻呂
人も街も空も
目に見えているから美しく思える
もし見えていないなら美しいという感情は存在しなかっただろう
もしかしたら悲しいという感情すら存在しなかったかもしれない
なぜならその世界では見えないことが当たり前なのだから
僕たちは見えている世界にいてそれが当たり前だから見えていることで安心感をおぼえる
もし途中で光を失うのならはじめから見えていなかった方がいい
ただでさえ生き物の命には決まった限りがあるのだから
僕がこの命の最期に見る景色はどんな景色だろう
幸いにも僕は今日まで視力を持って生まれてこられた
きっと最期に見る景色こそ僕が生涯見る中でいちばん美しい景色だろう
不安もあるだろうが
きっとそれよりも何よりも美しく尊い一度きりの景色なのだから
美しくより美しく僕はその景色を眺めるだろう
意識が遠のくそれまでずっと
たとえその景色が病院の窓から見えるみすぼらしい木枯らしだとしても
自分の部屋の灰色の床だとしても
僕は何のためらいもなく美しいと思うことだろう
どんな景色より
世界のどんな名高い遺産や絶景よりも
きっと僕はその景色をこの世でいちばん美しい景色だと思うだろう
そして
僕はその日がくるまでの間に
ずっと美しいと想う景色を 空を 人を見つめ続けよう
僕が最期に見る景色より美しい君であればいい
そして生まれてきてよかったと思えるその気持ちこそ美しくあればいい
そしてすべての命ある尊いものを美しいと思えればいい
そうすれば
きっとどんな景色よりも美しくかけがえのない
心を持つことができる
そう思うんだ
今はそう思うんだ
君といる今は。