詩人:甘味亭 真朱麻呂
向こう側から昔の僕がこちら側にいる今の僕を眺めてる
空にはあちら側にある月とこちら側にある月がふたつ
音もなく流れ落ちる水の壁が世界と世界を隔てている
手を伸ばしても
あちらの世界にはいけない
なぜならもう過去には戻れないから
僕だけじゃなく誰もが戻れないから
僕はただ過ぎ行った昔を思い返すだけ
それだけでいつか消え去るように
ある日突然僕は影さえ残さずいなくなる
あちらにもこちらにも存在しなくなる
でも相変わらず月はふたつ浮かんでる
世界は僕がいなくなっても存在し続ける
でも死んでしまう者にとっては終わりにも等しいだろう
時間の有り余った人を羨むのだろうな
勝手だとは想っても想わずにはいられないだろう
その想いさえ消えてしまう日はやがて誰のところにもやってくるのだから
悲しまずには終われないんだよ
涙せずにはいなくなれないんだよ
でも今はまだこちら側から
あちら側を当分眺めることができる
約束された終わりが見える頃、その一分一秒まで
僕はあちら側に行きたがるんだろう
無理だとは承知していても仕方ないほど僕は行きたくて行きたくてそれでも戻れないから
だから急がずにはいられなくなる
限りという線のすれすれまで。