詩人:剛田奇作
家内が大きな秋サバが食べたいと言った
俺は釣竿 片手に
海へ行った
雨の海で かなり粘って
吊り上げたのは
パイナップルのような赤ん坊だった
俺はがっかりして 秋サバを 諦め
その赤ん坊を餌にして
でかいサメでも釣ってやろうと意気込んで
また粘った
しばらくして
手応えが無いので
諦めて帰ろうと
竿を引き上げると
パイナップルのような赤ん坊は
両手に一匹ずつ
大きな 秋サバを持っていた
仕方がないから
パイナップルみたいな赤ん坊を
家に連れて帰った
家内は喜んで
乳をやりだした
俺はその赤ん坊が
どうも胡散臭くて
抱っこするのは嫌だった
なにか少し怖かった
名前は雨サバがいいと
家内が勝手に決めた
雨サバは成長し
実によく働いた
あるとき、家内がまた
秋サバが食べたい
と言った
雨サバは、
秋サバ、俺が採ってくる
といって
出かけていった
俺は
パイナップルみたいな
赤ん坊はもう要らないぞ
と言った
雨サバはそれきり戻ってこない
家内は秋サバが大嫌いになった
俺は、いまだに悔やんでいる
あの時 あんなこと言うんじゃなかった
俺は本当は
雨サバを大切に思っていたんだ
俺は、父親失格だ