詩人:W
あれは花
平凡な調べの 音階の上を歩く
僕の世界の前に唐突に咲いた
大輪咲きの花
呑んだ朱色の酒は 内臓から吸い上げられて
蒸気になって空気の中へ消える
僕はその向こうの花しか見えなかった
掬い取られた筈の欲望は
網をやぶって
ぽとり ぽとりと
胸に落ちてきたよ
こうして遠くから
きみを汚す僕にどうか
どうか
花びら一枚 と、
手を合わす
いつかは
その香を食べてしまいたい
とは稚拙な妄想だ
丹花のくちびるは
どの果実よりもきっと
甘いものなのだろう
正しい音階が ずれ堕ちる前に
手紙にしたためよか
劣情ごととじこめよか
花はいつまでも
綺麗で しどけなく
筆を舐める舌足らずな僕を
酔わせて 酔わせて
やわらかにとろかす
花はいつまでも
綺麗で しどけなく