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[184012] たとえちいさな光でも

詩人:千波 一也


わが子が泣くので
わたしはそっと抱きあげる
生まれたばかりの
からだを包む

そして
なるべく平易な言葉をかけて
わが子の視線の先を見る


ときに
わが子は泣きやまないが
この世にうまれたばかりなら
不安や恐れもあるだろう

滅入りそうでも
いらだちそうでも
わたしはつとめて
揺りかごになる

やがて
寝息をたてるわが子の頬には
ちいさいながらも
涙のあとができて
かわいそうに、と
胸がいたむ

この世には
いつまで泣いても
けっして抱きあげられることのない
赤子がある

かけられる言葉もなく
腕のぬくもりもしらず
泣き続けるだけの
赤子がある

かわく間もなく
こぼれ続ける涙をおもうとき
わたしはわたしの無力さに
なお胸を痛める

「おまえは良かったね」
「おまえは幸せだね」
「おまえは恵まれたね」

わが子にかけるどんな言葉も
後ろめたくて仕方ない

けれど
眠りはじめたわが子のために
その身に宿る夢のために
わたしはこの腕を
けっして解かない

たったひとつだけれど
たったひとつの拠りどころなら
わたしはかならず
失くさずにいよう

ほかでもない
わが子のために

たとえ
狭い、と責めたてられても
のちの道へと続いてゆけ、と
わたしはたしかに
灯っていよう


2014/02/14 (Fri)
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