詩人:はちざえもん
世界が終るまでの数時間で、僕はまずコーヒーを啜る。
それからお気に入りのパンを朝食に、お馴染みのニュース番組。
繰り返される日常が、時に狂気に変わるのを、僕は知っている。
それからお気に入りのジーパンに、黒のジャケット。
バッグに詰め込む「ライ麦畑で捕まえて」これだけは欠かせない。
繰り返される日常は、時に嫌悪感を抱かせる事がある。
ドアを開けば朝の空気が、僕の鼻腔いっぱいに広がる。
それすら世界の終りの兆候なのだと、妙に納得して、電車に乗り込む。
繰り返される日常に、気が付いてしまった瞬間、僕は決意した。
何も見たくない、何も聞きたくない。
聴覚をイヤホンで塞ぎ、視覚を薄ボケた伊達メガネで遠ざける。
「認めたくないものばかりが、楽しげに街を彩り、世界を踏みにじるんだ!
掌から砂が零れ落ちていくのを、ただ眺めていろというのか!」
規則的に揺れる電車の中では、毎日がルーチンワーク。
安寧を求めれば、これも心地良いものなのかも知れない。
それでも、世界が終るのは変えようがない真実なのだ。
そうだ、僕が終わらせる世界は、すぐそこにあるんだ。
中指を立てる。何も変わらない。
あと、もう少し、
丘の上の雲を 掴みかけている。
僕が終わらせる世界が、すぐそこまで来ているんだ。