詩人:千波 一也
大きなお世話を
売る店が
だいぶ減って
しまったから
世の中は
だいぶ自由になって
他人の
一挙手一投足を
監視したり
嘲笑したりして
ときを
費やしている
※
大きなお世話が
寝入ったあとには
きまって
風が
吹いていた
春を
あちらこちらに
振りまいて
暖かな
一陣に
つらなった
近ごろ
大きなお世話は
寝たきりが増えた
※
大きなお世話には
誘いに乗りやすいという
短所が
あったから
後味のよさは
そこに
理由があったのだろう
今では
すっかり
逆手にとられるけれど
※
大きなお世話は
まるで教科書
段ボール箱のなかで
日の目を見ない
ほこりの
ひとつ
売ろうと思えば
それなりに
買い手もあろうが
わざわざ
引っ張り出してくるほどの
余裕を
世間は
失っている
※
大きなお世話に
日付を記すと
なぜだか
安らぎが
わいてくるから
作法を
変えながらも
その
習わしは
絶えていない
※
大きなお世話が
降り出しそうな
予感が
したら
それなりの
身仕度を
したものだけれど
遠回りでも
それが
いちばん
近くて
身軽な
はずだったけれど
※
大きなお世話は
待ち過ぎた
おそらく
あまりに
待ち過ぎた
たやすく誰かを
裏切らないで
傷つけないで
済むように
自らを
もっとも
犠牲にして
大きなお世話は
待ち過ぎた