詩人:千波 一也
それなりの
背丈と重みとがあるわたしに
自動扉は開いてゆく
容易に
開いてくれることが
当然でなければならない、と
わたしもすっかり
慣れてしまって
背後で閉じられる
自動扉の気配のことは
それとなく聞いている
みんな同じはずだから
ひとつの音、として溢れかえらせて
わたしはすっかり
慣れている
・
「声にはしないことが自然と増えて、それでも
傷つくことを互いに幾つも数えてきたから、
素知らぬふりで、あたたかく共有し合えて、
伝わるものは必ずあるよね。そういうことを
信じていてもいいはずだよね。流されても、
忘れられても、思い出すことができるから。
それがわたしたちにある、大切な場所だから
小さくて小さすぎて、図らずも、失いかけて
急いでしまうけれど。みんな、みんな、
・
」
ときどき
ひとのこころの行き先が終われずにいる
機械、という言葉そのものが
直らない日の
片隅で
・
自動扉のその先に
いくつのわたしが消えるだろうか
向かう場所などなんにも知らず
使い古すこと、さえ
失いかけて
・
それなりの
昔と未来とがあるわたしに
閉じられたまま扉は開く
やさしく、
自動に
聡明に、