詩人:千波 一也
ひよこを食べる猫がいて
あるときひよこが
噛みついた
それからひよこは
猫を食べたり
ときどき親を
食べたりも
する
※
ひよこをだます猫がいて
おかげでひよこは
言葉を覚えた
周りと少し
意味のちがう
言葉がひよこに
染みついた
※
ひよこを育てた猫がいて
ひよこはそこに
ゆめを見た
ゆめ見たひよこの中からは
画家がうまれて
詩人がうまれて
やがて
それらは
芸術となり
貴族のひよこがあらわれた
ゆめの形は、
はじめての
ゆめの形は
ゆっくり
ゆっくり
さびしくなった
やさしくなった
※
ひよこは空を飛びたくて
小さく小さく
願い続けた
それゆえひよこは
いまだに小さく
けれど絶えずに
うまれ続ける
自由な羽毛の
きいろは
ひかり
ふわふわ
自由な空をゆく
※
ひよこは空を知りたくて
かなたの自分を
思い描いた
その行いが
ひとつの翼であることを
ぽつり、と広く
笑う庭から
※
ひよこはいつも
ひよこであるのに
それが意味するところは
ときどき難しい
やさしくなくては
ダメかもしれない
やさしいだけでも
ダメかもしれない
ひよこは
ひよこ
いつもの、
いつもどおりのひよこ
だからきっと
簡単には間違えないし
簡単には見つからない
※
ひよこを語るひとがいて
ひよこはひよこを
やめられない
代わりにこっそり
逃げたりしても
ひよこは
ひよこを
やめられない