詩人:はちざえもん
私が死んだのは五年前の事だった。
それはそれは鮮やかな季節で、
花は咲き誇り
全てが輝いて見えた。
愛する人は私の手を握り、「ずっと一緒だね」と微笑んだ。
私はと言えば季節の彩りの中で
幸せとは何であるかを知った気がしてた。
信号が青に変わると
私は繋いでた手を離して
前に、踏み出した。
happyend
なんとなく口ずさむ、あの歌。
見上げていたんだ。
綺麗な空や新緑の若葉、その総体としての風にそよぐ街路樹を。
私の顔を覗き込む貴方の悲しげな表情が
邪魔にさえ思えた、そんな美しい季節だった。
少なくともその表情は貴方には似合わない。
そう声をかけようとしたけど、
声にならなかった。
それからずっと動けない。
「あの信号が変わったら…」
そうしているうちに季節が過ぎて
雨が降って、信号が赤に変わった。
それでも私は動けない。
貴方の笑顔が思い出せない。
たぶん、それだけの事だと思う。
私がここを動けない理由。