詩人:甘味亭 真朱麻呂
夕暮れ時の僕の町の駅にはしばらくは人の足が途絶える
僕は独りで行ったり来たりする電車を何度も見送った
今日は不思議と帰っていく人の表情がなんだかおだやかで優しげだった
忘れるように過ぎていく日々は名残を残してきた昨日よりもずっとその前からも
続いていて積み重なっていて
少し切ないようなもどかしいようなそんな気持ちで
僕は今ぎりぎりに生きてきてそしてここにいる
これから失っていくすべてはもうすでに失ったものに比べたらはるかに多いだろうけど
でもまだすべてを失うには早すぎるだろう
振り返っては溜息をこぼす想い出なんてこれからもつくりたくはない
つくりたいのは思い出しては思わず微笑んでしまうようなそんな想い出さ
月と太陽が交じり合い目覚める瞬間にもう戻らない今日が終わったとはじめて感じるのです
あぁ 絶対に届かない昨日にはもう行きたくても行けないさ
ゆっくりと歩きつづけるこの道はまだまだどこまでも果てしなく
暮れゆく空を見上げれば心なしか切なくなるんだ
明日に行くための準備などしなくてもよかった幼いあの日に別れを告げたなら
そろそろ出かけよう
港町に灯りがともる頃
僕は見るだろう
この世界で今まででいちばん美しい景色を目にするだろう
降り注ぐ夕空からの贈り物
陽光のあたる静かな路地の白い家
君との始まりの場所
またここから始まるあの日からの恋物語の続き。