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[184333] トーチカ

詩人:千波 一也


海岸線を走ると
凍てついた汽水の上に
オオワシが
見える

車通りのまばらな国道に吹く風は
きょうも横なぐり

どんなに晴天だろうと
いや、澄めば澄むほどに
ハンドルを
とられる

海風に弾かれた雪の隙間からは
冬をしのぶ草たちの
鎮火の色合いが見えて
やがて
ぽつりぽつりと
人家が姿を見せ始める

かつての
繁栄を証す看板たちの
役目を終えた形も
姿を見せ始める

トーチカが見たければ
さらなる海岸線へ
赴けばいい

ロマンスのついででも
メモリアルのつもりでも
知らずのうちでも
興味本位でも
さらなる
潮騒へ
赴けばいい

いずれの理由でも
特別に理由などなくても
おそらく
二度目はないだろう

何の気持ちもないままに
迎える二度目はないだろう

安易な言葉の総てを受け止めるようにして
安易な言葉の総てを拒絶するようにして
風穴は今この時も音を立てている

いまや
定かにはしがたい明るみの中で
拭えぬ強固な黒点を背負わされた無数の一瞬が
海風に運ばれて聴こえくる

逃れようなど幾らもあるというのに
晴れ渡る暖かな冬の一日だというのに
それを
彼ら、を
彼女ら、を
待たせているのが見えてしまう

こんなに遠い
こんなに浅い
海岸線を走っていても



2014/03/16 (Sun)
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