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[154815] 心におとずれる夜

詩人:どるとる


涙の海に船を出す
まだ夜明けには
遠いどこまでも真っ暗な空の下
僕はチカチカと光る星に見送られ静かに船出する

楽チンな生き方で
いちばんお手頃で手軽な行き方で日々を泳ぎたかったから

大げさなハナシ三途の川も笑ってクロールで渡ってゆくような罰当たりな僕は
その場の空気にむせかえり
人ごみの中から
すり抜けるようにして物陰に逃げる
僕にはあまりに騒がしすぎる場所だから
咲くにはよくても
咲き続けるには苦だった

お日様の真下に
咲く花もあれば
日陰の中にひっそり
咲く花もある
人も同じだ
それぞれ
居やすい
場所があるんだよ

それが僕には暗い夜の海のような孤独だったってだけだ

涙の海に浮かぶ
一双の船は
紛れもなく僕だ
明かりもつけずに
暗闇に溶け込み
どんな表情してても
何もわからない

たとえば
この世界がずっと夜の海のような暗闇ならば良かった
そしたら他人のこわい顔も見なくてもいいから
人の目 人の顔色
うかがわなくてもいいから

そんな気持ちに沈む今に本当の喜びや本当の安息はない

そしてまた僕は
涙の海に船を出す
何度も何度も船を出す
けれどそのたびに持ち帰るのはぬぐいきれなかった涙ひとつだけ

そして夜が明けたならすべての罪も愚かしさもあらわになるのだろう
そしてまた僕はそこに広がる散らかった日常にまた追いかけられるのさ

光なんて行き届かない世界に生まれたかった

僕はまるで日陰に咲く花だね
今、涙が地面に落ちてはじけた
それがなんだか花のように一瞬見えたんだ
ほら、何も残らなくても僕の心にはまぎれもない記憶が残ってる
悲しいこともうれしいことも昨日の夜の切なさも

今、言いたいことは
夜は何も夜にだけおとずれるものじゃない
朝にだって気を抜けばおとずれるものなんだ
つまり心におとずれる夜
ほら、証を教えよう
僕の心は真っ暗。

2010/04/03 (Sat)
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