詩人:はちざえもん
少年は手をひかれ
夏の匂いを嗅いでいた
不意に口走るメロディーの欠片
女はそれきり口をきこうとはしなかった
少年が何度、呼びかけても
口をきこうとはしなかった
やがて振りほどかれた手が
虚しく、その影を追う
その日、少年は小さな胸に宿った憎しみを
刻みつけるように何度も呟いた。
夏の日差しが
一瞬だけ、思考を遮った。
遠ざかる面影
その日、少年は自身の運命が
音を立てて変化した事を知った。
世界はモノクロに少年の心を覆い、
やがて灰色の空が、遠く、遠くへ伸びていく
その日、少年はその小さな胸の奥底に
憎しみだけを何度も何度も刻みつけた
「遠ざかる母の面影」
その光景は、
大事な場面で
何度も彼の足をすくう