詩人:緋文字
憶えてなかった
しがみつかれていた腰は
末子の腕でも一巡り
印象深く残してしまって
記すものを
私がずらした
憶えがなかった
恰幅よい躯につく顔は
就床時に盗み見た
子供特有の脅えとか
そんなもの のせいで
記すべきを
私が抜いた
繋げたろう手 なくした時に
その子も なくしたばかりだった
まだ 逃避知らずの無垢な手の
逃避ではない
という事が肝要で
ひしと有り難かった
アーケードを抜ける時
電車を乗り降りする時
頭の重さが先にきて
絡まりそうな歩みに合わせ
見下ろせば
満悦と見上げる顔に
どこか胸張り
前を見た
この頃は あの人と
繋ぐ、というより
触れているのか
いないのか
それは とても合っている
振りほどく、のでない
摂理で解き放つ時にも
指先なり どこかしら
気持ちと同じく
締め付けないよう
それでも しかと
この人は繋いでくれているのだ、
思えばいつも 要した手
いま目前には憶えある
私と同じに黒子ある 手
様変わりして
これでは
大して 私と変わらない
この手をとれば
雑りものなき ひと踏みめ
手を繋ぎ
歩いてくれたのは誰か
私の心は 正しく
確認
するのだろう