詩人:どるとる
箱を開ける前と
箱を開けたあとの
気持ちは違うね
箱を開ける前は
箱を開けたあとより
ドキドキしてる
でも箱を開けてしまえばドキドキは消え失せて いつの間にか箱の中身に呆れ果てていたりする
未来も同じなんだ
限界がわかってしまえば変わらない営みに身をあずけていたほうが楽なんだ
社会のクモの糸に全身とらわれているほうが気楽なのさ
今さら もがいたって
今さら あがいたって
なるようにしかならない世界の仕組みはわかってしまってるから
開けた箱の中身は
開ける前のドキドキが勿体ないくらいに至極平凡な未来だった
キツいネクタイも
黒光りする革靴も
憧れていたスーツも
全てはぼくの行き過ぎた幻想の敗北
現実に出くわしたとき
全てがもろく崩れ去った
その音さえ とらえていたぼくの地獄耳
箱を開ければ
そんなものさと
こぼす言葉と
ため息が混ざって
空虚をつくりだす
部屋中にあふれた
倦怠感に侵されたぼくと頭の中に山積みになった未解決の問題集
答は無いに等しい
だけれど出さなくては前には進めない
そして出した答次第では破滅の一途
そしてまたぼくは言う
口癖は止まらない
箱を開ければこんなもんさ
何ひとつ不思議じゃないんだ
ただぼくの力が及ばなかっただけの話
あとはただ続く日々にもたれかかっていればいいだけさと
むなしさにあふれた楽園にぼくは逗留する
ああ 理想は果てしなく高かった
でも、現実は理想より厳しく狡猾だった
ただそれだけの話を真面目に語るだけの話
いずれは時が全てを笑い話に変えてくれる
その日を今はただ
侘びしく待つだけ
桜の花びら舞うような微弱な風に狼狽えて。