詩人:千波 一也
そっと
指にからめ取る粘液のなかに
胎動のような、ためらいが
ある
たやすくは
秘密裏に動けない総てのものを
固く透きとおらせてしまう
権力が、そこに
ある
良策かも知れない
今はただひざまずいて
弄ばれる身と親しむこと、が
良策かも知れない
月は
今夜も趨勢を謳歌している
御身の記憶を伝授すべく幹を
ぬかりなく定めながら
予定通りに、液化を
護らせている
永く
秀でることのない
謀反の末の手記たちは
とうに、飼い慣らされて
しまった
不服ながらも
離れてしまえない
威風の向こうの緊縛の、告げ口
もっと
微風にまみれてしまえたならば
従順で強欲な粘液が
艶やかさを増す、
だろう
しかと
献上に値する誓文として
無音の衆が、坐す
だろう