詩人:風凛
ある町中に質屋がありました。小さなおばあちゃんが一人で切り盛りしています。
そこへ賭博で借金まみれになった男がやってきました。男は既に友人知人、銀行、挙げ句の果てに闇金融にも手を出し、お金は全て借り尽くしていました。彼は半ば自暴自棄になり、すねた子供のように自分を強がって絶望を無理に無視していたのです。
何でも置いていくから一銭でも出せ、と強い口調で迫る男におばあちゃんは、
『じゃあ、あんたからは記憶をもらおうかねぇ。一番素敵だった記憶を。』
「何?そんなもので良いのか。」
男はたいそう驚きました。
『うむ、何万でも出してやろう…。ただし、二度と思い出せないがね。』
そして、おばあちゃんは男の頭に手をかざし…
数分後の男の手の中にはお札がたくさん握られていました。これでまたしばらく遊べる。
遊べる…?
俺はあの時、何を失ってしまったんだろう…。
男は遊ぶうちにだんだん気になり始めました。そういえば自分に何か足りない気がします。…男はなくしたものを知りたくて、どうしようもなくなりました。
――それから男は真面目に働き始めました。昼はガソリンスタンド、夜はコンビニ。男は一生懸命働きました。
とうとう期限の日がやってきました。男は閉店間際の質屋に文字通り飛び込みました。
「金はここだ。記憶を返してくれ。」
おばあちゃんはびっくりして、でもまたすぐに冷静になって、
『これはあんたが稼いだのかい?』
と聞きました。男は大きく頷きました。
『そうかい、実はわたしはあんたから記憶をとったりはしてないんだよ。』
男はまた、たいそう驚きました。
『でもあんたは頑張った。いいかい、今度はそのお金で借金を返してらっしゃい。そうすればあんたか今まで求めてたものも掴めるんじゃないかい?』
男ははっとして、店から駆け出していきました。
男の行方は誰も知りません。