詩人:善田 真琴
太古より人は安心立命にほど遠く、小さきは細菌より始めて蟻・蚊・蛭などを経て、大なるは肉食の獣に至るまで、人の命は常に外敵に狙われ、更に天変地異の天然にも時に害され、人は風前の灯火の如く長き時代を生き抜きて来たれり。我等は弱き故に文明の利器に守られ、危険減りにし今も、潜在する恐れの胸の内に巣食ひて残り居れば、常に落ち着かぬ心地去らぬなり。今日あるものは、必ず明日もあるとは限らざれど、世の中に哀しみ溢るる許りなれば、人は希みを虹の如き明日に結ばむとすらむ。
憂き世には
哀しみ底に
流れ行く
飛鳥川には
何を浮かべむ
(詠み人知らず)
【歌意】
憂鬱ばかりの世の中で、浮き上がれない哀しみばかりが底に淀み流されてゆく。明日に希望を繋ぐとしても飛鳥川に哀しみ以外の何を浮かべればいいのだろう。
【脚注】
「憂き」と「浮き」、「飛鳥」と「明日」が掛かる。