詩人:望月 ゆき
ワケもなく泣けてきた
ワケもなく泣けてきた
と、言ったのはどこか嘘で
きっと なにかあったのだ
ぼくがそれを認識していないにしても
ドラッグストアでもらった風船が
靴のひもを直そうと
かがんだすきに 逃げていった
ぼくの指をするりと抜けて
この感覚
どこかで たしか
この するりと抜けていく感じ
なにか 大切なものが
大切なものならば
ぐっと手に力を入れて
決してはなしてはいけないよ と
ずっと昔に大人たちが教えてくれたのに
そのとき教えてくれた大人たちも
きっと 数え切れないくらい
大切なものを失っていたのだろう
そして そのたんびに
つぶやいたに違いない
ワケもなく泣けてくる と
こんちくしょうな涙を流しては
そんなことを一瞬にして
考えながら
ワケもなく泣くぼく
ワケもなく 泣くぼく