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[10416] ワケもなく泣くぼく

詩人:望月 ゆき

ワケもなく泣けてきた

ワケもなく泣けてきた
と、言ったのはどこか嘘で
きっと なにかあったのだ
ぼくがそれを認識していないにしても

ドラッグストアでもらった風船が
靴のひもを直そうと
かがんだすきに 逃げていった
ぼくの指をするりと抜けて

この感覚
どこかで たしか
この するりと抜けていく感じ
なにか 大切なものが

大切なものならば
ぐっと手に力を入れて
決してはなしてはいけないよ と
ずっと昔に大人たちが教えてくれたのに

そのとき教えてくれた大人たちも
きっと 数え切れないくらい
大切なものを失っていたのだろう

そして そのたんびに
つぶやいたに違いない
ワケもなく泣けてくる と
こんちくしょうな涙を流しては

そんなことを一瞬にして
考えながら
ワケもなく泣くぼく


ワケもなく 泣くぼく

2004/04/06 (Tue)
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