詩人:遥 カズナ
ランプの灯りに揺れる
琥珀色に映えたシミーズから
静脈を僅かに透かした
いたいけな細い両の手足が伸び出ている
肩から覗く喉元を嗅げば
未だ微かに赤子の香りすら残る甘い命の豊潤が脈打っているだろう
傍観者の生唾に赤ワインが絡み
じっとりと飲み込まれていく
どこか
昼には気にならないのに
夜になると
それ程遠くはない
けれど訪ねて行くには臆するような
そんな向こうから
少女の名を呼ぶ声がする
夕靄の中
桟橋に繋がれた小舟に
裸足のまま降り立った好奇心は
結わえられた紐をほどくとオールも持たない不安も素知らず、陸を蹴り
水面へと滑り出してしまった
やがて
ひもじさを連れためまいは
自然に眠りと手を繋ぐように
膝を両の手に抱えさせ
そして、ほどけ
うつ伏せて横たわる
少女の胸は
心臓から真っ赤な血を全身へ満遍なく送る鼓動を
船底を通し水へと伝へ
湖深くに響き渡り高鳴っていった
湖の最も深い底の方では
湖の主が
新たな王女を迎える支度を整え始め
その慈愛ぶった
道化の、絵の具臭い唇と苔まみれの前歯の下には
陰惨になめずる舌を
おとなしくさせようとしてあやす下顎が、か細く理性を保っていた
栓を抜かれた湯船の
確かなスピードで
船はゆっくりと沈み始める
滴る水滴の波紋を歪め
水面に互いを映す旅は身繕いを始める
肉体を置き去りに
生死の境目をあらわにしながら
少女の死は完全に無垢な無駄になる
、