詩人:遥 カズナ
国道58号線の足元をくぐるほとんど人だけが行き交う小さなトンネルがある
夕刻になると入り口付近には
魚売りのオバサン達がアルミのタライに天秤で ささやかでも溌剌と客足を呼びとめ
他に花売りや 雑貨屋なんかも肩を寄せ合いながら
その日暮しの商いをしていた
トンネルの先に浮かぶ半円の眩しい向こう側は通学路でもあった
傍らには床屋があり
インシュリンを射つ為だったのであろう注射器を
店主は時折 引き出しから出して見せては
幼い私を脅かし じっとさせようとしたりした
埋め立て地の方から吹く海風が 材木屋のおがくずの香りと渦を巻き 吹き抜ける眩しい向こう側に
何か特別な確信が約束されていた訳も無い
朝夕
戦闘機の離発着は繰り返され
空を覆う爆音をくぐり
踏み躙られる事に慣れた小さな島は
そこに ただ『ある』と言う意義の他に その価値をないがしろにされていた
それは よくある国家間の政略の下
誰が駆け出しても
抜け出せける筈もない
小さなトンネルの
向こう側の話しだ…