詩人:感動マニア。
その扉の向こう側から
たくさんの笑い声が聞こえる
その扉の向こう側を
誰もが目指すという
その扉は近くに立つと
見渡せないほど大きい
その扉はどこからでも開くのに
同じ場所を競って争いが起きる
その扉は立つ位置や見る人により
異なった色に見えるという
男は紫と言い
傍らの女は青と言った
私はなるべく青に近い場所で
男の背を押した
男は女の手を引いて
扉の奥へ進み行った
感謝の声に嘘偽りは無くとも
ただ寂しさが広がり
鐘の音が 嫉ましかった
扉が鮮やかな桃色に見えて
一番美しい場所に背伸びしてふれた
扉は開かず ゆっくり色を変えた
闇より暗い黒のように
闇の彼方に
地獄の番犬が見えた
私はそれ以上その扉に
近づかぬ事にした
時が経ち
多くの人々が
笑顔とともに
向こうへ去り
幾人かの人々は
涙とともに
戻ってきた
いつからか 私は
笑う人とともに笑い
泣く人とともに泣き
扉の向こうへと背中を押した
そしていつからか
あの闇は姿を消し
空や海を溶かしたような
青い扉があった
入るための場所などない
扉はいつの間にか後ろにあった
笑い合う人はなくとも
握り返す手はなくとも
私はここに来た
涙なくして戻れぬのなら
痛みを覚えずに戻れぬのなら
せめて扉ごしにささやこう
誰かに届くまでささやこう
「ただ、あなたらしくあれ」と