詩人:中村真生子
人間が言うところの太古に
父と母は5人の子どもを産んだ。
母はすべてを与え
父はそれぞれを導いた。
人間が言うところの
時が流れている間
木はいつも詩っていた。
父と母のことを…。
けれど木は切り倒されて
詩を忘れた者たちは
きょうだいたちに刃を向けた。
直接的にあるいは間接的に。
残された木は詩う。
「父はひとり、母はひとり」と。
だれもが
母なる海と父なる太陽から
生まれたきょうだいなのだと。
伝え聴いた男は詩う。
東ティモールの森のそばで。
「父はひとり、母はひとり」と。
それ以上はなく
それ以下もないという
澄み切ったまなざしで…。
傍らで子どもたちが
笑ながらその詩を聴く…。